第16回「思い出したこと」
春の芽吹きと共に様々なことが動き出し、夏を迎えようとしている。
さて、そんなある日に海まで自転車を漕いでみようと思い立ち、愛車である古いロードバイクに空気を入れて、軽く整備し、フィルムカメラを持って往復70キロの旅へ出た。
春の芽吹きと共に様々なことが動き出し、夏を迎えようとしている。
Googleマップでルート検索すると最短距離で表示されるのでそんなに距離があるとは思っていなかったのだが、なんの根拠もなしに、昔の高校時代の体力有り余る感覚そのままで「まあ行けるだろ」とテキトーに決心してしまったのだ。
北海道の真ん中に位置する東川町に住んでいた僕にとって海は特別だった。車で行くにも一時間以上あるし、高校時代は免許もあるはずなく、自力で行くには汽車かバスか。とても頑張って自転車ぐらいしか辿り着く選択肢がなかった。
しかし高校生鈴木はとても頑張って自転車で海まで走ったのである。ママチャリでテントを背負い往復200キロの距離を一泊2日で。
そして今、札幌から海は以前住んでいた実家のある東川町よりは近い。ママチャリで走ったあの頃を思い出し、少し走ってみた。その結果、忘れていたことを沢山思い出す。
思い出したくもないことも思い出した気がするが、それは置いといて、一番大きかったのは写真のことだった。知識も大した詰め込まず、純粋に写真が好きだからという理由だけで写真に向き合っていた日々のことである。

結局のところその日々を思い出して思ったのは、写真ひとつ切り口にしても何かを知ることで新鮮さを失うことはあるということ。知識をつけていくことで、知識の中でしか語れなくなり、好きという純粋な気持ちから出てくる制作から離れていってしまうのかもしれない。知識がいらないとは言えない。でもバランスなのだな、と思ったところである。
そんなことに気づけた。いい旅だった。と書きたいが、帰りは微妙な登りと向かい風にやられた。あの頃のように走る、そして撮るには体力をつけなければならないなということにも気づいてしまった旅だった。